【書評】消費低迷と日本経済ー小野善康

友人の指導教官が最近新書を出したということで手に取ってみました。

小野善康先生の「消費低迷と日本経済」です。

 

小野善康先生は過去に内閣府参与として菅直人首相の経済政策のブレーンを務めるなどなかなか高名な方のようです。

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本書の概要と本記事の構成

 

株価や地価は高騰し、景気はよく見えるのに、なぜかGDPも賃金も増えない。

さらには格差、年金問題、国債累積……。

実は、こうした深刻な日本の実態はすべて

「リアルな物よりもバーチャルなお金こそ愛おしい」

という人々の欲望が引き起こしていた。

「経済学の常識」が通用しない成熟社会で、データと徹底した論理で示すこの国の処方箋。

(そで(表紙裏の説明書き)より引用)

 

「消費低迷と日本経済」というタイトル通り、この本の目的は現在の日本経済が抱える問題の原因を明らかにし、解決するための方策を検討することです。

 

 

株価や有効求人倍率の上昇など、さまざまな指標では上向いているように見える日本経済ですが、わたしたち自身にそんな実感はありません。

 

なぜ経済指標とわたしたちの生活実感はかけ離れているのでしょうか?

 

そんな現状の分析から始まり、少子高齢化や国際貿易にも触れながら現在の日本経済の問題点を明らかにしていく本書ですが、本記事ではその中でも以下の3点に絞り、紹介と感想を述べることにします。

 

・リアルなモノやサービスよりもバーチャルなお金にとりつかれた日本人

・供給不足ではなく需要不足によってもたらされた不況

・増税延期と財政支出

 

 

 

リアルなモノやサービスよりもバーチャルなお金にとりつかれた日本人

 

高度経済成長期を経て、すっかり先進国の仲間入りを果たした日本。

 

今やわたしたちの身のまわりには物があふれ、人々の目的は物やサービスを買うことではなく、お金を貯めること自体になってしまった。

 

これは本書で一貫して筆者が指摘する問題点です。

 

お金とは本来モノやサービスを買うためのものであったはずなのに、いつの間にかそれ自体にとらわれて口座の数字を増やすこと自体がゴールになってしまっている。

 

なので不動産や金融資産など、実体経済と結びつかないバーチャルな世界にばかりお金が流れ込む。

あるいは普通の人も、貯金をせっせと積み立てて、消費にお金を回さない。

 

消費にお金を回さないから、企業の販売も増えず、経済が成長しない。

経済が成長せず賃金が増えないから、余計にお金を増やそうとする。

 

 

おいしいものや便利なもの、楽しいサービスを手に入れるためにお金は存在するのだという本来の意義を思いだし、こうした悪循環から抜け出さなければならないというのが本書の一貫した主張になっています。

 

その結果として経済がまわり成長し、めぐりめぐって自分にもかえってくるのだというのは、確かにその通りですね。

 

お金を貯める理由を一度考え直さないといけないかもしれません。

 

 

しかしその一方でこの論理は、いまの日本社会を覆う漠然とした不安感に全く触れてないのも事実です。

 

人々を貯金へと駆り立てている根本的な原因である将来への不安感を取り除くことなく、消費を呼びかけても現実味は乏しいでしょう。

 

そこらへんの具体的方策まで踏み込めていないのは少し煮え切らない印象があります。(もちろんそんな方法があればとっくに実行に移されているんでしょうが)

 

 

 

供給不足ではなく需要不足によってもたらされた不況

 

筆者は不況の要因には2種類の原因があると述べます。

 

「供給不足」「需要不足」です。

 

このう供給不足による不況は、金融緩和を推し進め、企業に設備投資を増やしてもらい供給能力を上げることで解決することができます。

 

また供給不足による不況では、政府が労働力や生産資源を使ってしまうと民間の邪魔になってしまうため、減税や一時金などの方策が望ましいとされています。

 

それゆえに政府と日銀は延々と金融緩和を続けているのです。

 

 

 

しかしながら現在日本に起きている不況の原因は「需要不足」なのです。

 

需要不足による不況を解決するために政府が取るべき方策は下記の3つの特徴を備えたものです。

 

①国民の生活の質の向上に結びつく

②民間の製品の代替品ではない

③安定した雇用創出を継続的に保証する

 

これらの特徴を備えたものの具体例として筆者は、芸術・観光インフラ・教育・保育・医療・介護・健康を挙げています。

 

 

ふむ、主張自体はなるほどと思います。

 

不況の原因を「供給不足」と「需要不足」に分けて分析する方法は納得感がありますね。

 

ただ具体例として出てきているものを実現しようとすると財源はもちろん、既存の民間業との兼ね合いなどいろいろと考えることが多そうです。

 

 

 

増税延期と財政支出

よく知られているように日本は借金大国ですし、返済のために増税が必要だと筆者は言います。

 

増税延期は、増税分を一旦集めて、すぐにそのまま国民に返したのと一緒のことだと。

それでは何も変わらないのは当たり前だと。

 

増税で集めたお金を公共事業に投資すれば雇用も生まれ、景気全体にも良い影響が出るのだからそうするべきだと。

もちろん払った人にそのままお金が返ってくるわけではないが、社会全体で見れば払ったお金をそのまま返すよりもプラスの効果が出ていずれ自分にも返ってくるのだからそうすべきだと。

 

 

でも今の日本にはそんなことは考えず、目先の増税にとりあえず反対する人が多い。

税金が増えることを拒否するくせに公共サービスの充実やさらなる便利さばかりを求める声が多い。

 

政治家もそんな大衆の人気取りに躍起になっているからますますその風潮が加速する。

 

そんな問題提起をしています。

 

 

確かにいまの日本では、政治家は目先の人気を取ることばかり考えているように映ります。

 

そしてそれは政治家だけの問題ではなく、それをよしとしている社会全体の問題であるということも認識する必要があるでしょう。

 

税金を負担することなく利益だけを受けとることはできないという当たり前のことを思い出して、自分ごととして政治を考えていかなければいけません。

 

 

 

まとめ

本書からいくつか論点を抜き出して紹介してきましたが、加えて全体としての特徴も挙げておきます。

 

まず本書はもともと新聞のコラムが元になっているだけあって、専門用語がほぼ出てこない、平易な日本語で書かれています。

 

そのため経済学の心得が一切ないわたしでもスラスラと読み進めることができました。

 

やはり経済学の本となると小難しい単語が並ぶのかなという心配は当然あると思いますが、この本に関してはその心配はありません。

 

 

また本書の節々には筆者のわたしたちに対する問題提起が散りばめられています。

 

「~すべきだ」という筆者の主張に「確かにその通りだ」「いやそれは違うんじゃないか」と考えるだけでも、どんな社会が理想なのか考えるよいきっかけになるはずです。

 

わたしも筆者の問いかけを通して、自分では気づいていなかったわたしの中のあるべき社会像に気づかされました。

 

「消費低迷と日本経済」

今の日本経済はダメだと感じているけどそれをうまく言語化できないあなたにオススメです。